あついよー・・・
溶けるよ、これは・・・・
「遅ぇ・・・・副長早く戻ってこいよおらぁ・・・」
木製のベンチに
だるんと腰掛け、力無くつぶやいた。
今日は江戸1番の夏日かなんかで
軽く30度はあるんじゃねぇーかという
快晴の日に真っ黒な重たい隊服を着てるなんて
馬鹿なんじゃないかと、なんども頭の中で繰り返し思っている私は
一応真選組の女中なわけで
普段なら今日は見回り担当ではないので
クーラーの効いた屯所で涼んでいるはずなのに
鬼の副長とも言われているにっくき土方が
今日は山崎が休みだのなんだの言い出して
変わりに私を見回りに借り出しやがった。
死ねよー土方ー・・・・
今なら沖田君と
最強タッグを組める気がするよ私。
そうボケーっと、前にある
パチンコ屋の前で必死に
客寄せをしている店員を見つめて思った。
(頑張るねぇー、パチンコ屋さん)
てゆーか遅いだろ副長!!
何がタバコ買ってくるだ。
絶対コンビニかなんかで涼んでるんだ!そうに違いない。
あのやろー、こんな炎天下の中
一人取り残しやがって
なんだ?私なんか副長にしたのか?
マヨネーズ勝手に使ったからか?そうなのか?
戒めなのか!?
暑さのせいなのか、私の怒りボルテージは
上がる一方だった。
「殺してやるー・・・土方ァー。」
「誰が、テメェに殺されるかっ。」
もうこの際なら真選組やめてやるぜ
みたいな勢いで言った言葉に
聞きなれた声からの返答があった。
(やべぇー・・・)
「おか、えりなさい、副長。」
「わりぃな、」
そう言って
涼しい顔をしながらすっと
私の隣に腰掛けた。
いや、なんでこんな
涼しげな顔してんだよ!
やっぱ、コンビニか?コンビニなのかぁ!?
と、ギっと睨みつけていたら
なんだよ、と返されて
なんでもないですー。と再びパチンコ屋の店員に目をむけた。
すると、カチっと良い音が
隣から聞こえたので
土方さんの方をみると
缶コーヒーのプルトップを開けていた。
「・・・・・・・・」
「なんだよ。」
なんだコイツ??
一人だけ冷たい飲み物買っちゃって!
えぇ?待たせといてこの仕打ちかコノヤロー
「土方さん、だからモテないんすよ。」
嫌味たっぷりに言ってみると
あぁん?と瞳孔をさらに開き私を睨み付けた。
「普通、女の子待たせといて自分だけ冷たい飲み物かいますか?目の前で
飲んじゃうんですか?おかしいだろよぉーおい。こっちはここでずっと干されてたんですよぉ?」
というと
「うっせーな、自分で買えよ。」
と冷たく言い放ち
ゴクゴクと喉を鳴らしながらコーヒーの飲んだ。
えっ?何?
殺していい?
(初めて真面目に殺意を抱いた瞬間だった。)
もう、怒っても仕方ない
無駄な体力を使うのはよそう、
とガクンと私は項垂れた。
早く屯所戻りてぇーなー・・・
「おい、」
「なんすかぁー・・・帰りますかぁ?」
「ちげぇーよ、」
「えぇ?じゃぁ、なんすかぁー。」
「ほら、」
ん?
と思って土方さんの方を向くと
缶コーヒーが差し出されていた。
「な、なんすか?爆弾っすか?」
「お前は、素直に受け取れねぇーのか。」
「いや、できます。はい、いただきます。」
差し出されてる新品の缶コーヒーを受け取って
とりあえず、額に当ててみた。
「あぁー・・・気持ちいコレ。」
ちょうどいいくらいに冷えた
缶は私の体温を下げるには小さいが
少しでも暑さがふっとんだ。
「いや、てか土方さん最初から買ってたんじゃないですか。」
「違ぇーよ、それは俺のなんだよ、2本買ったんだよ俺用に。」
土方さんは最後の一口を
グっと飲み干して
今度は新品のタバコに手を出した。
(なんだかんだ言って買ってくれてるんじゃないか。)
と火をタバコに付けてる
土方さんを見て少し笑った。
「何笑ってんだよ、それ飲んだらもどっぞ。」
「へへ、はーい。」
私はさっき土方さんがしたように
カチっと良い音を鳴らして缶を開けた。
恨めし気な音
(ちょっと温いんですけど!)(お前がずっと持ってっからだろが!!!)
080224