さっきから頭の中が真っ白。その理由は2つ。
ひとつ。今は放課後であり普段なら家に向かって歩いている時間であるのだが今日は、小テストで赤点をとってしまったという理由で居残り勉強を教室でしている。まぁ、それだけで頭の中が真っ白になっているわけではなく、それが自分の大嫌いな英語というわけでまったく問題が解けずにいるのが1つの理由。そして、ふたつ。教室に男子と2人きりというものすごく恥ずかしい状況であり、またそれが自分が少し好意を寄せている人物であるということで自分の緊張は最大級なわけで。とてもおいしいシチュエーションなのだが、自分がそのシチュエーションを物にできるわけがなくさらに冷や汗が増す状態。一刻も早くプリントを終わらせて帰りたいと思うばかりの自分の苦笑いが浮かんだ。
「あぁー・・・部活行きてぇ。」
数分の沈黙の中いきなりの言葉に私はビクっと体を震わせた。
「お前、早く解けよ。」
「えっ?」
隣に座っている三井は、私に目を向け顎でプリントを指した。
「えっ?ってなぁ・・・」
「いや、だって意味わかんないし。」
「お前が終わんねぇーと俺写せねぇだろ。」
「あぁ、そだね。・・ってえぇ!?」
「なんだよ。」
「最初からその気だったの?」
「あたりめぇーだろ。俺ができるわけねぇだろ。」
そう自信満々に三井は言い放った。なんで私はこんな奴が好きなのだろうか。すごく泣きたくなってきた。
「授業中寝てるのが悪いんだよ。」
私は三井に少し腹が立ってボソっと一言小さくつぶやいた。
「あぁ?」
「なんでもないです。頑張ってください。」
ボソっと言ったのがひそかに聞こえたのか三井はものすごく怒りに満ちた声で聞き返してきた(あれ?聞き返してきたでいいのかな?)それでも私は驚くことはなく本当のことを言ったまでだと思い、決して自分のプリントは見せないと言う意味で頑張れという応援の言葉を棒読みで返してやった。というか、私もこのプリントはできないので真っ白なプリントを結果的に見せることになってしまう。でも、この状態でできないと言えば完璧に馬鹿にされるので必死に問題を解いている振りをしてみた(情けないさすぎて、また泣きそうだよ。)ってよ、俺のこと好きだろ?問題が解けないのを必死にごまかしていた最中、突然の三井のナルシスト発言に私は回していたシャーペンを机に落とした。
「はぁ?」8割の人間はこんなこと言われたらそう返すんじゃないかと思う。残りの2割は可愛らしく「実はそうなの」なんて言っちゃうんだろうけど生憎私はそうゆう側の人間ではない。
「図星か?」
落ちたシャーペンを見詰めて三井は口角をニっと上げて言った(コノヤロ・・・・)
「ちっ、ちがいまーすよ。」
もっと落ち着いて言えばよかったものの、意外にも私は焦っていたようで声がすこし裏返った。私の答えに「はぁーん、そうか。そうなのか。」ってわざとらしく言って面白そうにまたニヤっと笑った(完璧にはめられてしまった)私が心中で絶望に落ちていこうとすると「よし、帰っか。」なんて多分顔が赤いであろう私を三井は終始ニヤついた顔で見てからガタっとイスを鳴らして立ち上がった。
「はっ?プリントは?」
「そんなん最初からやる気ねぇーし、解けねぇだろ?」
お前赤点だし。最後にそう言ってまた満足そうに笑った。あぁ、こんな奴が好きな自分が悔しい。と立っている三井を睨んだ。それでも三井はそんな顔しても怖くねぇーっての、とひょいと自分の鞄と私の鞄を取り上げて言った(いや、ちょいまて)
「え?それ私の鞄っ!」
「あぁ?一緒に帰んだろ?」
私が鞄を取り返そうと立ち上がったときには三井はもうドアに向かって歩きだしていて私が再び声をあげた時に振り返ってそう言った。
「な、なんでよ!一緒に帰るなんて言ってないし。」
「お前なぁー、今日から俺ら付き合うんだから別にいいだろ。」
少し呆れた顔をしながら三井はそう言った。私は今日2度目の「はぁ?」を無意識に口から出していた。顔真っ赤だぞ。口をパクパクしている私に向かって三井は今日何度目かわからないニヤついた顔で私にそう言い教室を出て行った。
「ちょっと・・・・意味わかんないんだけど。」
1人になった教室で私は両手で頬を押さえながら小さく弱った声でつぶやいた。状況が飲み込めたのはそれから5分後のことだった。
放課後と僕と君
(遅ぇよ、とっとと帰るぞ。冷やかされっから。)